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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)4560号 判決 1969年2月25日

原告(反訴被告) 株式会社ゼネラル

右訴訟代理人弁護士 芦田直衛

同 増本一彦

同 高木右門

右訴訟復代理人弁護士 安富巖

同 石田武臣

被告(反訴原告) 北村政夫

被告(反訴原告) キタムラ電機株式会社

被告 永代電機サービス株式会社

被告 山田石太郎

右四名訴訟代理人弁護士 中沢守正

主文

(一)被告(反訴原告)北村政夫は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録(一)、(二)記載の各不動産につき、東京法務局墨田出張所昭和三六年六月一二日受付第一八、七二六号所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をせよ。

(二)被告(反訴原告)キタムラ電機株式会社は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録(三)、(四)記載の各不動産につき、東京法務局墨田出張所昭和三二年六月一二日受付第一六、二一八号所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をせよ。

(三)被告(反訴原告)北村政夫は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録(二)記載の建物のうち、別添図面表示の同被告の占有部分を明け渡せ。

(四)被告山田石太郎は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録(二)記載の建物につき、東京法務局墨田出張所昭和三六年六月一二日受付第一八、七二六号所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続がされた場合には、同建物のうち、別添図面表示の同被告の占有部分を明け渡せ。

(五)原告(反訴被告)の被告永代電機サービス株式会社に対する請求および被告山田石太郎に対するその余の請求ならびに被告(反訴原告)らの反訴請求をいずれも棄却する。

(六)訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告(反訴被告)と被告永代電機サービス株式会社との間においては、全部原告の負担とし、原告(反訴被告)とその余の被告(反訴原告)らとの間においては、原告(反訴被告)に生じた費用の一〇分の九を同被告(反訴原告)らの負担とし、その余は各自の負担とする。

(七)この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、代物弁済の予約完結

反訴請求原因については、いずれも当事者間に争いがない。また、原告が、昭和二七年ごろから、被告キタムラ電機に対し、原告主張のとおりの代金支払方法で、継続して電気機械器具を販売していたことも当事者間に争いなく、<証拠>によれば、原告が、昭和三六年五月二〇日、被告北村政夫との間で、原告と被告キタムラ電機との継続的取引により同被告が原告に対して負担する債務について同被告において債務不履行がある場合には、金五、〇〇〇、〇〇〇円につき、債務の支払いに代えて本件不動産(一)、(二)を原告に譲渡する旨の代物弁済の予約を締結し、原告が、同年六月一二日、右各不動産につき、代物弁済予約に基づき所有権移転請求権を保全するため、本件仮登記(一)、(二)の仮登記手続をしたこと、および原告が、昭和三二年六月一〇日、被告キタムラ電機との間で、右継続的取引により生ずる債務について、同被告において債務不履行がある場合には、金五、〇〇〇、〇〇〇円につき、債務の支払いに代えて、本件不動産(三)、(四)を原告に譲渡する旨の代物弁済の予約を締結し、原告が、同月一二日右各不動産につき、前同様、本件仮登記(三)、(四)の仮登記手続をした事実が認められる。右認定に反する被告北村政夫本人の供述部分は採用できず他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

原告が、昭和三八年七月一日当時、被告キタムラ電機に対して少くとも金一四、八一二、七五六円の履行期を徒過した売掛金債権を有していたこと、および原告が、昭和三八年七月二日、被告北村政夫および同キタムラ電機に到達した書面で被告北村政夫に対しては本件不動産(一)、(二)を、同キタムラ電機に対しては本件不動産(三)、(四)を、右売掛金のうち各金五、〇〇〇、〇〇〇円の支払に代えて取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二、代物弁済の効力

(一)、虚偽表示、本登記手続をしない合意

被告北村政夫本人の供述によっても、被告主張の、本件各代物弁済予約が虚偽表示によるものである事実および原告が被告らに対し本登記手続をしない旨を約した事実を認めることはできず、他にこれらを認めるに足りる証拠はない。被告らの右各主張は採用しない。

(二)、権利濫用

被告主張の、本件各不動産の価格が債権額に比べて過大であるとの点については、被告北村政夫の供述中には、本件(一)および(三)の宅地の価格は、各金六、〇〇〇、〇〇〇円位で、本件(二)および(四)の建物は殆ど無価値である旨の供述がある。かりにそうだとしても、右価格は、代物弁済の基礎となった各金五、〇〇〇、〇〇〇円の債権に比して著しく過大なものではないから、これをもって本件代物弁済の予約完結を権利の濫用とすることはできない。のみならず、右供述は何時の価格をいうのかも明確ではなく、かつ根拠薄弱であって到底採用に値しないのであり、かえって証人小菅皐吉の証言およびこれによって真正に成立したと認められる甲第一三号証によれば、本件(一)ないし(四)の不動産の価格は、本件代物弁済予約完結当時において、前記債権額を超過するものではないと推認されるのである。また、原告がいずれも本件各不動産につき根抵当権を有している事実は、原告がその不動産を代物弁済により取得することを何ら妨げない。被告らの権利濫用の主張は採用しない。

(三)、信義則違反

原告が、訴外北欧電機株式会社および訴外釧路キクチ電機株式会社との取引を通じ、被告キタムラ電機に対する債権の回収を実行していたとしても、このことは、原告が、他の確実な債権回収の方法である代物弁済の方法を採ることを何ら妨げるものではない。本件においては、原告が代物弁済による債権回収の方法を事実上放棄したとか、原告が代物弁済の方法を採るために、ことさら、自ら右各訴外会社を倒産させたとかの特段の事情は何ら認められないから、原告の代物弁済の方法の選択を信義誠実の原則に違反するものということはできない。被告らの信義則違反の主張は採用しない。

(四)、そこで、原告は、昭和三八年七月二日到達の各代物弁済予約完結の意思表示により、有効に、本件不動産(一)、(二)については被告北村政夫から、本件不動産(三)、(四)については同キタムラ電機から、その所有権を取得し、同被告らはそれぞれ右不動産の所有権を失ったことになる。よって、原告の代物弁済の予約完結により、右被告らに対し仮登記の本登記手続を求める本訴請求部分は正当であり、同被告らの所有権に基づき原告に対し仮登記抹消登記手続を求める反訴請求は失当である。

三、建物明渡請求の成否

(一)、被告北村政夫、同永代電機サービス、同山田石太郎が、それぞれ、原告主張のとおり、本件建物(二)のうち別添図面表示部分を占有していることは、当事者間に争いがない。被告北村政夫は、これに対し、何らその占有権原を主張、立証しないから、原告の、同被告に対し建物明渡しを求める本訴請求部分は、正当である。

(二)、<証拠>によれば、被告永代電機サービスは、昭和三五年五月一五日、当時本件建物(二)を所有していた被告北村政夫から、別添図面表示の被告永代電機サービスの占有部分を賃借した事実を認めることができ、同被告が現にこれを占有している以上、同被告は、賃貸借契約締結当時、被告北村政夫から、目的物である右占有部分の引渡しを受けたものと推認することができる。原告の本件建物(二)の所有権の取得は、所有権移転請求権保全仮登記をした昭和三六年六月一二日に遡って対抗力を具備することになるが、被告永代電機サービスは、これより以前に賃借して引渡しを受けており、かつ、この賃貸借契約には借家法の適用があるから同被告の賃借権は原告に対して対抗できる。よって、原告の、同被告に対し建物明渡を求める本訴請求部分は、失当である。

(三)、弁論の全趣旨とこれにより真正の成立を認める<証拠>によれば、被告山田石太郎は、昭和三七年九月一五日所有者北村政夫から本件建物(二)のうち別添図面表示の同被告の占有部分を賃借したことが認められる。これは、原告が所有権移転請求権保全仮登記をした昭和三六年六月一二日の後であるが、同被告は原告の所有権取得登記の欠缺を主張し得る利益を有するから、原告は、右建物につき所有権取得の本登記手続をしない限り、その所有権取得をもって同被告に対抗できない。この仮登記の本登記手続がされた場合には、同被告の賃借権は、原告の所有権の取得に対して対抗できないことになる。よって、原告の、同被告に対し建物明渡を求める本訴請求部分は、右本登記手続がされることを条件として正当であり、その余の部分は失当である。

四、結論

よって、原告の本訴請求のうち、前認定のとおりその正当な部分を認容し、失当な部分を棄却し、被告北村政夫および同キタムラ電機の反訴請求を棄却する。<以下省略>。

(裁判長裁判官 岩村弘雄 裁判官 原健三郎 江田五月)

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